欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う6月23日の国民投票で、離脱支持が過半数に達したイギリスでは、予想外の結果に混乱が続いている。残留を訴えてきたキャメロン英首相は辞意を表明し、後任には与党・保守党の党首に選ばれたテリーザ・メイ内相が就任する見通し。教皇フランシスコは26日、EU離脱決定を受け、「巨大な連合の中で機能していないものがある」とした上で、加盟国に主体性や自由をより認めることで、EUは力強さを回復する可能性があると語った。立教英国学院チャプレンとして働く日本聖公会神戸教区司祭の與賀田光嗣氏に、現地の様子と教会の動きを聞いた。
――現地の様子は?
私が住むのは、ロンドンに近い英国南部ですので治安は良く安全ですが、イギリスは今、揺れています。地方在住/都市圏在住、貧困層/富裕層、低学歴/高学歴、高齢者/若年層など、EU離脱派、残留派についてさまざまなフィルターで分析がなされ、英国民間の「分裂」が現れています。単に支持政党が違うという話ではなく、連合王国の行方に関わる分裂です。
スコットランド、ウェールズ、北アイルランドが、EU残留すなわち連合王国からの離脱を表明しています。北アイルランドの人々はアイルランドのパスポートを取得できるので、残留派市民が役所に殺到する事態も起きています。また、イベリア半島最南端の軍事通商の要衝「地中海の鍵」といわれるジブラルタルも離脱を匂わせています。
何より首都ロンドンでEU残留派・連合王国離脱派、双方の運動が始まりました。この分裂は「欧州」全体に波及しかねません。聖公会のみならず英国の宗教指導者たちは、高度に政治的で慎重な判断を迫られています。
――現地教会の動静は?
まず、英国国教会(英国聖公会)は、EU離脱/残留の是非に対しての声明は発表していません。しかし、選挙開票後すぐの6月24日に、インターネット上でカンタベリー大主教ジャスティン・ウェルビーの連名による声明と、礼拝の中で使う特梼と連祷を発表しました。国民投票後、人々が分裂しないように、互いを憎まないように、共に歩むように、との声明と祈りです。類似した声明や祈りは投票前からも示されていました。
投票の背後には、国内の経済、失業、移民、難民問題など、さまざまな問題が複雑に横たわっています。どのような結果になっても分裂ではなく和解を求めるという祈りです。